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微生物の取り扱いにおける基本操作 3 無菌操作 [共通]

(3)無菌操作

 微生物学実験では培地・器具を滅菌することが必要である他に、植菌操作などにおいて空中に浮遊する雑菌の混入を避けて操作(無菌操作)する必要がある。通常の実験室内において解放状態で行う無菌操作から、無菌室内で最大の注意を払って行う操作まである。それらは実験条件により必要とされる無菌の程度に応じて使い分けられる。


A.解放状態での無菌操作

 通常の実験室でも胞子の飛散しやすいカビ類などを同時に取り扱っていない場所では、落下菌数もそれほど多くない。したがって、高い無菌度を要求されない培養(増殖速度が速くかつ短期間の培養が目的)では、解放状態で無菌操作を行うことが可能である。ガスバーナーの炎を強くし生ずる上昇気流の中で操作を行えば、落下菌の混入を避けることができる。




B.無菌箱

 内部を滅菌したガラス張りの無菌箱(カステン)を用いることにより、多くの微生物学実験で必要な無菌度を得ることができる。箱内の滅菌に備え付けの紫外線ランプがある場合は、30 分以上照射を行った後、紫外線ランプを消して操作を行う。紫外線ランプのない無菌箱では、逆性セッケン原液を 1/100 - 1/200 に希釈した液を内部に噴霧器で噴霧する。30 分くらい放置することにより霧とともに空中の雑菌が沈降するのを待ち、使用する。無菌箱内に持ち込む器具類は、逆性セッケン液につけて絞った布で可能な限り拭き取ってから入れるようにする。箱内には試験管や白金耳を寝かせておくための簡単なガラス棒架台を入れておくと便利である。無菌箱内でのカビ類の移植は、相互の混入を防ぐため、同時に行うのは 2 - 3 種程度にとどめるのが望ましい。




C.クリーンベンチ

 大型のガラス箱内に紫外線ランプ、無菌フィルター、エアカーテンなどを装備し、箱内の無菌空気を常に下から上へと循環させ、外部とはエアカーテンで遮断する装置がクリーンベンチである。このような装置では高度な無菌状態を実現できる。




(4)培養法(好気性および通性嫌気性微生物の培養)




A. 固体培養

a.斜面培養法(slant culture)

 径 18 mm の殺菌試験管に寒天培地を約 10 ml ずつ分注し、オートクレイブで殺菌した後、斜面培地をつくる。斜面をつくる際には、培地を綿栓に付着させぬこと、ねかし過ぎないこと(低部から 2 cm ほどのところから斜面をつくるとよい)などの注意が必要である。なお、斜面に限らずいずれの培地にもあてはまることではあるが、培地は殺菌後に恒温器へ入れて雑菌が生育してこないことを確認することが望ましい。

 


















図  接種のしかた

斜面培地ができたら無菌操作により目的菌を接種する。火炎殺菌した白金耳で種菌をとり、斜面上に下から上へ軽く一直線を画す(図 )。この場合、白金線の

先端は、細菌、酵母では「針」か「耳」を用いるが、カビの場合は「鉤」が便利である(図 )。斜面培地では凝縮水が底部にたまることがある。そのような状態のほうが菌の生育に良好な結果を示すが、酵母のように糖類を含む培地でガスを発生させる菌の場合は、凝縮水に菌を浸さないようにする注意が必要である。菌を接種した斜面培地は恒温器に入れて生育させる。

b.穿刺培養法(stab culture)

 通性嫌気性菌の保存、一般細菌および酵母の生理・生態の観察のために用いられる。前項と同じく適当な寒天培地を綿栓した試験管に入れ、殺菌後直立させて放冷凝固させる。白金線の先端に種菌をとり、管口を斜め下に向けて培地の中央の管底近くまで穿刺する(管底まで穿刺してはいけない)。

 ガス発生菌では泡を生じたり、割れ目ができる。




B. 液体培養法

 生育状態、生理を観察する場合、培養液の化学的な分析を行う場合、菌体を多量に得ようとする場合、液中にとくに通気が必要な場合などに行うもので、次のような方法がある。

a.静置培養(standing culture)法

 試験管に 5 - 10 ml の培地を分注し、殺菌後白金耳で接種して恒温器で培養する。供試培地での繁殖の有無、菌蓋または皮膜、沈澱物形成の有無、ガス発生および簡単な生産物の検出反応などを観察するのに用いられる。したがって、用いる培地はできるだけ透明で沈澱物のないものを使用する。

b.通気培養(aeration culture)法

 とくに酸化発酵の場合あるいは細菌、酵母などが液内に通気することによって多量に増殖する場合に用いる。普通は三角フラスコなどの中に除菌フィルターを通した空気をエアーコンプレッサーなどで送り込み簡単にその目的を果たすことができる。

c.振盪培養(shaking culture)法

 これは通気培養法の一種であるが、前項とは異なり往復振盪機(reciprocal shaker, 120 - 160 rpm)または回転振盪機(rotary shaker, 150 - 300 rpm)上に載せ、連続的に培養液を振盪することにより通気し、かつ撹拌するものである。往復振盪機の場合、一般に、500 ml 容の肩付き振盪フラスコ(坂口フラスコ)に 50 - 100 ml の培養液を分注して用いる。回転振盪機の場合は三角フラスコを用いる(図 Ⅵ-4)。この他、試験管振盪培養機も用いられる。

 この場合注意すべき点は綿栓がかた過ぎないこと、雑菌混入の危険を避けるため綿栓を濡らさないようにすること、少し多量の種菌を接種することなどである。


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微生物の取り扱いにおける基本操作 2 培地の作り方 [共通]

(2)培地

 培地は微生物を生育させる場であるとともに栄養源である。一般に微生物を構成する主要物質はタンパク質、核酸、脂質、炭水化物、無機塩類であるから、培地中にはこれらをつくるのに必要な炭素源、窒素源、無機塩類が含まれていなければならない。


A. 培地の主成分

a.炭素源

 特殊な微生物(炭酸ガスを利用する細菌)を除いては炭素源として炭水化物、とくに糖類(ショ糖、ブドウ糖など)、デンプン、有機酸塩、タンパク質の分解物、アミノ酸類などが用いられる。その必要量は単に微生物の生育を目的とする場合、細菌では 1.0 - 0.2 %、酵母やカビでは 5 % くらいで充分である。

b.窒素源

 空中窒素固定菌以外は窒素源を添加する必要がある。これには普通タンパク質またはその分解物、無機アンモニウム塩がもっともよく用いられるが、アミノ酸、尿素、硝酸塩なども用いられる。微生物の生育を目的とする場合は、窒素元素として 0.1 - 0.5 % で充分である。

c.無機成分

 無機成分として培地中に含有する必要のあるものは、P、S、K、Na、Mg、Ca などであり、これらはリン酸塩、硝酸塩、その他の塩類として加える。この他微量成分として Fe、Cu、Zn、Mn などを添加する場合もある。しかし、これらの微量無機成分に関しては他の成分の不純物としてや、器具の汚れなどから充分量が供給されることが多い。

d.その他の成分

 微生物によって炭素源、窒素源、無機成分の他に特殊な生育因子(ビタミン類、核酸、塩基など)を必要とするものもある。




B. 培地の種類

 微生物の種類あるいは実験目的に応じて、それぞれ適当な培地が使用される。材料によって大別すると天然培地と合成培地の2種がある。後者の培地は化学薬品のみで作製され、化学組成がはっきりしているため微生物の代謝系などの研究に好都合である。一部を天然物として他の一部を化学薬品とした培地(半合成培地)もよく用いられる。

 培地の外見、性質によって液体培地、固体培地に大別することもできる。後者は前者に寒天、ゼラチンなどを加えて、主成分にはできるだけ変化を与えないで固化したものである。前者は微生物の生理学的実験あるいは大量培養などに用いられ、後者は微生物の保存、純粋分離などに用いられる。




C. 培地調製上の一般的注意

 培地は微生物の種類、生育、生産物などを検討する重要な要因となるから、できる限りいつ調製しても差異のないことが理想である。そのため培地調製にあたっては、組成、pH、殺菌条件などを一定にするように注意することが大切である。




a.培地のpH

 微生物にはそれぞれ生育に適当なpH範囲があり、その範囲以外では良好な生育ができないばかりか、死に至る場合もある。したがって培地のpHを微生物によって適当な範囲に修正する必要があるが、殺菌後変化する場合もあるから注意を要する。適当なpH範囲は、細菌では 7.0 - 8.0、酵母では 5.0 - 7.0、カビでは 4.0 - 6.0 である。




b.寒天固体培地

 寒天の凝固性を利用して液体培地を固化したものである。寒天を炭素源として利用できる微生物がきわめて少ないことから利用される。通常液体培地に粉末寒天を 1.5 % 添加し、沸騰水浴中で加熱して溶解した後、熱いうちに(寒天は 45 ℃以下で凝固する)使用する容器に分注する。殺菌後に無菌的に殺菌した容器へ分注する方法もあるが、その場合は殺菌時に寒天が溶解するので、溶解の操作は不要となる。培地のpHが 4 以下の場合は加熱殺菌により寒天の分解が起こり凝固しなくなるから注意を要する。

 斜面培地をつくるには殺菌後試験管等を横に傾けて放冷固化(図 )すればよい。




c.培地の殺菌

 作製し容器に分注した培地は必ず直ちに殺菌する。通常、合成培地はオートクレイブで 110 ℃、10 分、天然培地は 120 ℃、20 分の条件で殺菌する。培地の組成により熱分解しやすいもの、重合物をつくりやすいものを含む場合は、適当な殺菌条件でそれぞれの成分を別個に殺菌し、殺菌後の各成分を無菌的に添加して完全な培地を作製する。




d. 一般培地の調製法

 培地の組成は微生物の種類、実験目的などによって異なり、多くの種類の培地があるが基本的なものをあげると次の通りである。














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菌類のふしぎ [共通]


今、上野の国立科学博物館で「菌類のふしき」という特別展をやっているそうです。
きのことカビと仲間たちがわかりやすく解説されているらしい。是非、行ってみたいものです。
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役に立つ教科書たち [共通]

講義で十分理解できなかった部分の内容補足等に使えます。

対象講義

基礎微生物学
 教科書、参考書

Brock微生物学

Brock微生物学

  • 作者: Michael T. Madigan, Jack Parker, John M. Martinko
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 大型本

遺伝子制御学
 教科書、参考書

Brock微生物学

Brock微生物学

  • 作者: Michael T. Madigan, Jack Parker, John M. Martinko
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 大型本


組換えタンパク質生産法

組換えタンパク質生産法

  • 作者: 塚越 規弘
  • 出版社/メーカー: 学会出版センター
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本

微生物の科学
 教科書、参考書

微生物学入門―微生物と生活科学

微生物学入門―微生物と生活科学

  • 作者: J.F. ウィルキンソン
  • 出版社/メーカー: 培風館
  • 発売日: 1989/12
  • メディア: 単行本


人に役立つ微生物のはなし

人に役立つ微生物のはなし

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学会出版センター
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 単行本

バイオテクノロジー概論
 教科書、参考書

レクチャーバイオテクノロジー

レクチャーバイオテクノロジー

  • 作者: 橋本 直樹
  • 出版社/メーカー: 培風館
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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